うつ病/大うつ病性障害
うつ病の症状には以下のようなものがあります。症状は大変多彩ですが、全ての症状が同時に出ることはなく、人によって症状のあり方はさまざまです。中には心の症状にはあまり自覚がなく、身体的な症状の方が強く出る人もいます。
- 気分が落ち込む。
- 憂うつである。
- 悲しい気持ちになる。
- 希望が持てない。
- いなくなりたい、死んでしまいたい。
- 不安感がある。
- イライラする。
- 居ても立ってもいられない。
- 集中力が低下して、ミスが増えた。
- 記憶力が落ちた。
- テレビや新聞などの情報が頭に入らない。
- ちょっとした決断ができない。
- なんでも悪い方に考える。
- やる気が出ない。
- 好きだった事を楽しめない
- 他者との交流が面倒で、つらく感じる。
- 物事がおっくうに感じる。
- 眠れない
- 寝つきが悪い。
- 途中で目が覚める。
- 朝早くに目が覚める。
- 睡眠が浅く、寝た気がしない。
- 過眠になる。
- 食欲がない
- 好物を食べても美味しいと思えない
- 味がしない、砂をかむようである
- 体重が大きく減少した。
- 食欲が過剰である、体重が大きく増えた。
- 体がだるい
- 疲れやすい、疲れが抜けにくい
- 体が重い
- さまざまな部位の痛み
- 便秘や下痢
- 動悸、呼吸苦
- 月経不順
- 性欲の低下
- 勃起不全etc
生活や環境からくるさまざまなストレスが、発症の引き金になることがあります。しかし何をストレスと感じるかは、人によって違いが大きいものです。例えばコロナ禍以前は、対人コミュニケーションが苦手な人が社会の中でストレスを感じることが多くありました。しかしコロナ禍により在宅勤務や在宅学習が続くと、対人コミュニケーションが得意な人も、孤独感からストレスを感じるようになりました。この例からもわかるように、この病気は「心の弱い人」がかかる病気ではなく、環境や状況の変化によって誰もがかかる可能性があるものです。 また「うつ状態」は、うつ病以外のさまざまな精神疾患(双極性障害など)や、場合によっては身体疾患、服用している身体疾患の治療薬の副作用としてもみられることがあるため、最初の段階で詳細な情報を聞かせていただく必要があります。
うつ病には、薬物療法の効果が期待でき、服用開始後1~4週間程度で効果が現れ始めることが多いです。薬剤のファーストチョイスとしては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSa(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などの抗うつ剤を用います。これらはそれぞれに得意とする病態や副作用の特徴といった「持ち味」があるため、よくお話を聞いて選択をします。服用開始後は断続的に服用すると効果が現れにくくなるため、継続して服用する必要があります。その後1ヶ月から3ヶ月程度の継続内服で、症状は概ね落ち着くことが多いです。しかしここで服薬をやめてしまうと症状が再発するため、予防のため最低1年間の継続内服が必要です。
うつ病の症状はとても苦しいため、患者さんは「改善する」「調子が良くなる」というイメージが持ちにくく、本当に良くなるのか、と考えてしまいます。しかし考え方が悲観的になってしまうこと自体がそもそも症状なのです。ある日急に良くなることはなく徐々に改善していくので、気持ちが焦ることもありますが、じっくり取り組むと症状改善の実感は得られます。良くなってきていることが、自分自身の感覚でちゃんと判るようになります。
ここ20~30年間のうつ病領域での精神科薬物療法の進歩はめざましく、副作用はその出現率が大きく減少し、かつ重症の副作用は起こりにくくなっています。時にみられる副作用は、頭痛、眠気、めまい、ふらつき、といった「あたまの副作用」と胃のムカムカ、吐き気、下痢や便秘といった「おなかの副作用」です。たとえ軽い副作用であっても、長期間内服を続けることを考えると、きちんと対策をしていくことが肝心です。
またうつ病の治療は、純粋な薬物療法のみでは限界があります。上述のようなストレス要因と、それに対して自分がどのように反応し発症に至ったかを認識し、同様のパターンに再びハマらないように自分の行動を見つめ直す、といった過程が、再発の予防に役立ちます。こういった認知と行動に注目した精神療法は、服薬と同じくらい重要です。
薬物療法と精神療法を組み合わせて治療を行い、症状の改善後も再発予防のために治療を継続して、1年が経過したのちに徐々に薬物を減薬し、治療終結となります。治療経過の中で気づいた自分の傾向を忘れず、ストレスに対する対策法を実践し続けることで、再発のリスクを下げることができます。