身体症状症

身体症状症は、かつては身体表現性障害、身体化障害、疼痛性障害などとさまざまな呼ばれ方がありました。しかし精神科診断の分類の検討や整理に伴い「身体症状症とその関連疾患」の内の1つとして、名称が改められています。
身体的な不調が主症状で、検査してもわからないなんらかの病気にかかっている、と考え、情動が不安定になったり社会機能の低下をきたします。一般の身体科(精神科以外の科)を受診する人の5~10%が身体症状症の診断に当てはまります。疾患の性質上、有病率は正確なデータがありませんが、10代の女性に発症することが多いです。
症状
  • 苦痛で日常生活に混乱を引き起こす身体症状が1つ以上見られる。
  • 身体症状やそれに伴う健康への心配に関して、過剰な感情、思考、行動が現れる。
  • 身体症状自体ががなくなっていても、症状が持続して存在すると認識している。
身体症状は別の医学的問題に関連していることもあれば、関連していないこともあります。前者の例は、狭心症の発作をかつて起こした人が、完治後も胸苦などの症状がの継続を主張したり過剰に心配し続ける場合です。後者の例は、特に怪我や異常がないのに「ここが痛い、あそこが痛い」と訴え続ける場合です。そして現在経験している身体症状によって、手遅れになることなど最悪の結末を想定します。
患者さんは自分に身体的な問題があると確信していて、医学的に身体には問題がないことを専門家から何回も説明を受けてもそのことに納得がいきません。その結果、あちこちの医者を何回も訪ね歩く「ドクターショッピング」を繰り返すこともあります。そんな中で「正しく診断や治療ができない」医師や、「理解をしてくれない」周囲の人々に対しての不信感が強まったり、自己治療のために手に入れた薬を大量に使うようになったりすることもあります。またうつ病や不安症圏の疾患を合併することも多いです。
原因

心理的には「気にかけてもらいたい」という強い欲求が根底にあったり、何かからの逃避を無意識に望んでいたりすることがあります。身体症状というきっかけを通して、自分の思いや葛藤を表現しているということです。しかしこの表現方法は多大な苦痛を伴うため、思いの表現や葛藤を解決する手段としては、極めてマイナスが大きいものです。

治療

症状に心理的な要因が作用していることを主治医と共有していくことが、非常に重要です。極論かもしれませんが、「体が乗り物なら、脳や精神がその乗り手」と言う考え方は、状況の理解に役に立ちます。乗り物自体が不調をきたせば、その乗り物はうまく動かなくなりますが、乗り手の不調でも乗り物の挙動は異常をきたします。また誰もが経験のある「心と体の相互作用(心身相関)」を思い起こすことも有効です。例えば緊張するとトイレに行きたくなったり(心→体)、風邪をひくと気持ちまで元気がなくなったり(体→心)といったように、心身は強い相関関係にあって相互に影響を及ぼし合っています。これらの理解をもとに、自分に起っていることを解き明かしていくことで、状態の改善を目指します。

また、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と言うタイプの抗うつ薬も、この病気には有効であることが多いです。特に疼痛性障害と従来言われていたタイプの、メインの身体症状が痛みである身体症状症に対しては、効果が高い薬があります。依存性もないため、副作用などに注意しながら使うと治療の助けになります。

改善に向けて

身体症状症は非常に慢性化しやすい疾患です。自分の苦しさをわかって欲しいのに、誰にもわかってもらえないという経験を繰り返すうちに、症状へのこだわりが強化されていきます。特にドクターショッピングは症状を強化しやすい行動として知られています。信頼のできる一人の主治医と、早めに治療を始めることが改善のための近道です。