解離症(解離性障害)

解離症(解離性障害)とは、意識の流れが中断され、意識や記憶、自我同一性(アイデンティティ、自分が自分であるという自明の感覚)をまとめることが、一時的にうまくできなくなる病気です。普段保たれているはずの意識や自我同一性が保たれておらず、特定の場面や時間帯の記憶がすっぽり抜け落ちる「解離性健忘」、別の人格に交代してしまう「解離性同一性障害」、自分が自分と思えなかったり、現実感が持てなかったりする「離人感・現実感消失障害」といった状態に陥ります。
症状

意識や自我同一性、セルフコントロールの感覚は、睡眠やアルコールなどによる酩酊状態を除いては、常に連続して保たれているものです。例えば、「一昨日の朝ごはんに何を食べたか」といった部分的な事柄を思い出せないことはあっても、ある特定の時間や期間にあったことを丸ごと、全く思い出せないということは、酒に強く酔っていたり眠っていない限りはないし、自分が何者かがわからなくなってしまう状態が長続きすることはありません。
しかし解離症ではそういったことが発生します。いくつかのパターンがあるため、それぞれ紹介しましょう。

① 感情の乱れ

心的ストレスが大きく作用したときに、その出来事に関する記憶が抜け落ちます。一般常識的な記憶は残っていることが多いです。忘れてしまっていることに対して混乱した様子が見られることは少なく、記憶の欠落に対して平然としている場合もあります。ほとんどが数日のうちに改善するものの、長期化するものもあります。

② 解離性混迷

解離状況下で、自分で体を動かしたり話したりすることができなくなります。そういった時には自我同一性が保たれておらず、患者さんは戸惑い混乱した状態にあります。通常はごく短期間で症状が改善します。

③ 解離性遁走

解離状況下で、自分が普段いる場所から逃げ出し遠くに行ってしまいます。通常は数時間から数日以内に、我に帰ったように遁走前の意識状態を取り戻しますが、その時には遁走中の記憶は失われていることが多いです。時には遠く離れた他県や他の地方、場合によっては海外にいってしまうことや、自分の経歴も思い出せず、新しい土地で別の人物として生活をするようなケースもあります。しかし、解離性同一性障害のように人格の入れ替わりはありません。

④ 解離性同一性障害

一般的には二重人格や多重人格、という言葉がよく知られています。この状態は古くは憑依(狐憑き、悪魔憑きなど)として知られていました。2つ以上の人格が存在するかのように振る舞い、それぞれの人格に個別の性格や考え方、行動パターンが存在したり、名前を持っている場合もあります。各人格の間ではコミュニケーションがとれていて、相互に記憶を共有している場合もあるし、そうでない場合もあります。私が経験したケースでは、人格同士が頭の中の「会議場」のような空間に集って合議をすることがある、というケースもありました。珍しい例ですが、かつてアメリカでは警官の症例で、「銃撃戦の時は射撃の得意な人格」「カーチェイスの時は運転の上手い人格」といったような人格間の役割分担が成立しているケースまであったようです。

⑤ 離人感・現実感消失障害

離人感とは、自分の行動や発言、感覚、考えや感情が自分のものとは思えず自分から「離れていってしまった」ように感じられる症状です。極端になると体外に離脱したように感じ、自分が自分を背後から見下ろしているような感覚=幽体離脱体験をしたり、自分自身を街中などで見かける経験=ドッペルゲンガー体験をする方もおられます。
現実感消失とは、自分が周囲の世界から「離れていってしまった」と感じる体験のことです。濃い霧や夢の中にいる、目に見えない壁で隔離されている、といった感じを味わっています。そういった時には、周囲から見ると感情の動きがない機械的な反応しか示さないように見えますが、患者さんは大きな精神的苦痛を感じています。

原因

症状発生のメカニズムは不明ですが、こういった状態は概ね原因となるストレスが存在することが多いです。ストレスの種類は災害や事故、戦争の体験から職場や家庭でのストレスなど様々ですが、特に解離性同一性障害に関しては、ほぼ全例に幼少期の性的/身体的被虐待体験のトラウマがあり、離人間・現実感消失障害に関しては、幼少期に情動的虐待や情動的ネグレクトを経験している人が多いことが知られています。強いストレスにより危機的状況に見舞われている自分を「切り離して」守ろうとする心理反応という見方は、これらの病気の理解に役立ちます。

治療

この病気に至ったストレスは患者さんによって千差万別で、症状の現れ方もかなりバリエーションがあります。そのため発症要因の個別性や症状の詳細について話し合い、治療者とともに理解をすることがまず必要です。解離現象は自己防衛の反応であることをよく理解し、その上で強いストレス状況下にあったかつての自分の気持ちを、安全に感じられる環境で話し合っていくことが、「もう解離をしなくても良い自分」が確認できることにつながっていきます。
またこの解離に特異的に効く薬、というものは未だ存在しませんが、周辺症状としての抑うつ感や不安感に対して薬物療法を行うことは、症状による負担を減らして症状に向き合いやすくするために有効です。

改善に向けて

解離症は比較的早期に解決するものも多くありますが、慢性化したものや、より重症感のある解離性同一性障害などは、長期にわたる治療が必要になることも多いです。安心した治療関係を作れる治療者と、粘り強く治療を進めていくことが重要です。