双極性障害(躁うつ病)

躁(そう)状態とうつ状態という対極的な2つの気分の状態が見られる疾患です。昔は躁うつ病という名称で知られていました。我が国では男女差なくおよそ100人に一人がかかる病気で、決して珍しいものではありません。うつ病と同じくうつ状態が見られるため同じような病気と思われがちですが、躁うつ病とうつ病は全く別の病気で、治療法も違います。そのため、正確な診断と適切な治療選択が特に重要です。
症状

躁うつ病の方は、躁状態の時期とうつ状態の時期、そのどちらでもない正常気分の時期(間歇期と言います)を行ったり来たりします。症状は、典型的な物では以下のように対照的に分かれます。

躁状態
  • 気分が高揚し、多幸感、爽快感がなかなか途切れず持続する。イライラしたり怒りっぽくなり、攻撃的になることもあるが、その結果トラブルになってもあまり応えない、後悔をしない。興奮状態に陥ることも。
  • 多弁で過活動状態になったり、浪費傾向が見られる。気が散って注意力が散漫になる。
  • 思考、言動がまとまりを欠く=「頭の回転が早すぎる」。意欲が亢進し活動量が増え、落ち着きがなくなる。作業効率低下。
  • 自己評価が過剰になり、根拠のない自信に満ち溢れる。
  • 知らない人にも馴れ馴れしくするなど、普段のその人よりも社交性が増強する。
  • 睡眠欲求が低下する。「忙しくて寝ている暇がない」と訴える。
  • 症状を自覚しにくい。主観的には、「調子がいい、何もかもうまくいっている」と感じることが多い。「これこそが本来の自分だ」と誤解しやすい。
うつ状態
  • 気分の落ち込み感、悲哀感、不安感が見られる。イライラしたり怒りっぽくなり、攻撃的になることもあるが、後でそのことに対して激しく自己嫌悪に陥り、自分を責めることが止められなくなる。
  • 言葉少なく行動や思考が停滞し、集中力を持続できなくなる。
  • 思考や言動に「ブレーキがかかったような」状態になる。意欲が低下し活動量が低下する。行動ができなくなる。作業効率低下。
  • 否定的な考えが過剰になり、自己評価が低下する。自信を喪失する。
  • 対人関係を避けるようになるなど、普段のその人よりも社交性が低下する。
  • 眠りたくても眠れなくなる。「夜眠れないのが辛い」と訴える。
  • 症状を自覚しやすい。主観的には、「調子がわるい、何もかもうまくいかない」と感じることが多い。「本来の自分がどうだったかわからない」と感じやすい。
双極性障害では、このような症状が時期によって入れ替わるように見られます。また症状の全くない時期(間歇期)がみられることも多いです。それぞれの症状の持続期間は、典型的なものでは数週間から数カ月、場合によっては年単位で続くこともあります。逆に非常に早く気分が入れ替わる「急速交代型」と呼ばれるタイプもあります。
また双極性障害は、それぞれの症状の濃淡で2つの型に分類されます。躁状態とうつ状態の両方がしっかり見られる「双極Ⅰ型障害」と、軽躁状態とうつ状態が見られる「双極Ⅱ型障害」です。こう書いてあると双極Ⅱ型障害の方が一見軽症のようにも見えますが、むしろ1型の方が治療により安定が持続しやすい傾向があります。躁状態のみしかみられないものもありますが全体の1割程度と珍しく、長い経過の中では後年うつ状態が確認されることも多いです。
原因

まだはっきりとわかっていません。病因論としては、神経伝達物質であるドーパミンなどの量の変化が関与している、という説や、細胞内のミトコンドリアの機能障害による細胞内カルシウム濃度の調節異常が関与しているという説などがあります。前部帯状回、と呼ばれる前頭葉の一部がこの病気の人では萎縮しやすく、治療によりこの部分の脳容積が回復する、という報告もあります。いずれにしても、双極性障害は「心の病気」というよりは「脳の病気」と言ったほうが説明がつきやすい、という側面があります。

治療

双極性障害の治療は、上述の「脳の病気」という側面が強いことからもわかるように、心理療法だけで治療を行っていくことにはかなり無理があります。適切な薬物療法を行うことで病状を安定化させ、躁状態に転じる「躁転」、うつ状態に転じる「うつ転」を防ぎ、少しでも間歇期が長く続くようにしていくことが重要です。

双極性障害の薬物療法においては、うつ病の治療薬である抗うつ薬は効果がなかったり、むしろ病状の不安定化を招くことがあるため、基本的には用いないようにします。一方で気分安定薬、抗精神病薬というカテゴリーの薬は有効です。気分安定薬は、基本的には「高い気分は下げて、低い気分はあげる、気分を真ん中に持ってくる」という作用があります。抗精神病薬は上述のドーパミンの調整を行なう薬です。気分がうまく安定化すると、躁状態でもうつ状態でもない正常な気分の状態を実感できるようになります。

薬の副作用は、使用する可能性のある薬剤が多岐にわたるため、薬ごとの違いを理解し、副作用出現時には上手に対処をすることが重要です。ちなみに、感情安定薬や抗精神病薬には依存性は一切ありません。

薬を服用するだけでなく、病気のことをよく理解し、改善後も悪化の兆候を早期に察知して対策を考える、といったことも重要です。病気の治療に関して言えば、正しい知識は必ず助けになります。また全ての精神疾患で言えることですが、規則正しい生活や良質な睡眠、栄養摂取、適度な運動といった基本的な事柄は、この病気でも良い影響を与えます。これらのことに関する生活の調整を行なうと、改善は明らかに早まります。

改善に向けて

この病気は躁状態の時には対人関係トラブルや浪費傾向などから、またうつ状態の時には動けなくなることで、生活の障害が強く出ることがあります。そして残念ながらこの病気は、再発をきたしやすい病気です。そして完治する(=治療を終えても再発しない)ための手段が今のところ確立していない病気でもあります。そのため、治療を行わず放置すると何度となく再発し、どんどん生活が立ちいかなくなってしまうこともあります。逆にしっかりと症状コントロールがつき、年余にわたって再発がない人は、「服薬し通院している」こと以外は、病気がない人と何ら変わりなく生活を送れています。正しい診断と治療がしていけるよう、ぜひ主治医と協力して治療してください。