産後うつ病
基本的にはうつ病の症状と似ていますが、頻度が高い症状としては以下のようなものがあります。
- 極度の悲しみ
- 頻繁に泣いてしまう
- 気分の変動
- 怒りの感情
- 突発する不安発作やパニック発作
- 物事への意欲や興味の喪失
- 無力感や絶望感
- 子供に対する関心の喪失
- 子供に対する関心の喪失
- 子供に対して過剰に心配をする
- 子供を自ら傷つけることを恐れる
- これらの感情を持ってしまうことに対する自責感、罪悪感
- 自傷行為
- ふと死ぬことを考える
- 極度の疲労感
- 動けない、活動できない
- 睡眠の障害(不眠/過眠)
- 食欲の異常(食欲減退/過食)
分娩後に抑うつが生じやすい原因はまだわかっていないことが多いのですが、月経周期に関連した気分変調(月経前緊張症/月経前不快気分症)が元々ある人や、経口避妊薬の服用中に気分変調があった人では産後うつが生じやすくなる、という知見があります。そのため分娩後に見られる母体内でのホルモンバランスの急変が、産後うつの発症契機になり得るのではないか、と言われています。またうつ病が過去において見られていた人でも発症しやすいため、うつ病において見られる脳内の神経伝達物質(セロトニン等)の異常も同様に関係していると思われます。
また、妊娠から出産、その後の養育に至る過程の中で、夜間何度も起きざるを得ないなど生活が激変したり、経済的な問題が生じたり、周囲の人との関係性が変化したりします。そのほかにも妊娠や出産そのものに対する心理的葛藤、果ては核家族化や女性の社会進出に伴う社会的な要因からくるものなど、出産前後の時期に女性が感じるストレスは一昔前に比べて明らかに複雑化しています。最近ではコロナ禍による不安も、それに拍車をかけています。こういったストレス群も産後うつ病発症のきっかけになっています。
マタニティブルーの範囲内であれば、周囲の人たちの支えがあれば乗り切れることが多いのですが、産後うつ病と診断されるレベルになると、うつ病と同じく薬物療法と精神療法の組み合わせが適応になります。
産後うつ病独自の治療への心配事としては、授乳中に服薬をしても子供への影響は大丈夫なのか、というものがあります。通常よく用いられるSSRIやSNRI、NaSSaといった代表的な抗うつ薬は母乳に移行する率がかなり低く、服薬しつつ母乳授乳を行なった母子の追跡調査においても、大きな問題の報告がほとんどありません。従って、どうしても気持ちの面で許容できない、というケースを除いては、母乳を与えつつ服薬も続けることができると考えます。また精神安定作用を持つ漢方薬では、母乳中に移行しても、むしろ母子ともに作用することで、双方に良い影響をもたらすことができる、とされている薬もある(漢方薬の用語では「母子同服」と言います)ため、抗うつ薬の服用に抵抗がある人はそちらを用いる、という選択肢もあります。
また以下に述べるような基本的な対策が、治療の役に立つと同時に産後うつ病の発症予防にもなります。出産を控えた方は、あらかじめこういった対策を周囲の人とともに心がけておくのも、いい事かもしれません。
- できるだけ多く休息を取る(子供が寝ている時に一緒に昼寝するなど)
- 家事など全てを完璧にしようと思わない、できないことを自分に許す。
- 毎日シャワーを浴び/入浴し、服を着替える、可能なら日光を浴びる
- できる範囲で、頻繁に外出するよう心がける
- 自分の気持ちを周囲の人に話す
- 他のお母さんたちと話をする機会を持つ
- 新しく母親になった人は、気分が安定しなくなったり、自分が母親でいて良いのか、と不安になったりするのは普通のことであると考え、こういった考えは必ず収まると認識する
薬物療法と精神療法を組み合わせて治療を行い、症状の改善後も再発予防のために治療を継続して、1年が経過したのちに徐々に薬物を減薬し、治療終結となります。服薬終了後も子育ての苦労は続いていくので、そういったことに関して安心できる「相談相手」として、通院間隔を開けながら継続受診を希望される方もおられます。