不眠症

不眠症は睡眠障害の一種で、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒の3種に大別されます。日本での有病率は一般人口を対象とした疫学調査で21%程度と見られており、かなり頻度が高い疾患と言えます。日本人の1日あたりの平均睡眠時間が最近50~60年で1時間以上短縮している、というデータもあります。その背景では生活スタイルや環境の変化、ストレスの問題などが影響を及ぼしていると想定されています。
症状

不眠症の症状には下記の3種類があります。

1つ目の入眠困難(入眠時不眠、初期不眠)は、文字通り寝つきにくい、という不眠です。ベッドに入っても20-30分以上眠れないものが当てはまります。2つ目の睡眠維持困難(睡眠維持不眠、中期不眠)は別名中途覚醒といって、途中で何度も目を覚ましたり、一度目を覚ますと20-30分以上再眠できないものを指します。3つ目が早朝覚醒(後期不眠)でこれも文字通り朝早く目が覚めるものです。覚醒予定時間の30分以上前に目が覚めて、睡眠時間が6.5時間未満のものを指します。この3つのいずれかが1週間に3夜以上あり、この状態が1-3ヶ月持続するものを「非器質性不眠症」と診断します。

不眠に陥ることによって昼間の眠気や疲労感が生じ、イライラするなど気分が不安定化したり、注意を集中することが困難になったり、記憶力が低下したり、体力が落ちていると感じたりします。また、眠れないことそのものによる精神的な苦痛(「眠れないと明日まともに動けなくなる」と言った不安や、「また眠れなかったらどうしよう」という予期不安まで様々)もあり、トータルでは健康状態への影響の範囲が広いことも特徴です。

不眠症の症状は、様々な精神疾患や身体疾患で起きることもあるため、純粋な不眠症と断定するためにはうつ病不安症などのその他の精神疾患がベースに存在しないか、などを確認する必要があります。

原因

不眠症の原因には、主に若い人に多い夜更かしや昼夜逆転などの不規則な生活習慣からくるものや、高齢者における「睡眠を維持する能力」の加齢による低下など、様々なものがあります。原因となりうる心身の疾患があるようなら、それが原因ということになります。

治療

治療としては睡眠導入剤(睡眠薬)を使います。睡眠導入剤については近年大きなブレイクスルーがあり、以前に比べ薬物療法の選択肢が増えています。
人間の睡眠、という現象においては、わかりやすくいうと2種類の脳神経回路が関与しています。1つは脳の視床下部にある「睡眠中枢」で、「眠らせるための神経中枢」と言い換えられます。もう一つは脳幹を初め脳内の複数の場所に散在する「覚醒中枢」で、これは「覚めさせるための神経中枢」と言い換えられます。この2つの中枢がシーソーのように、片方が上がるともう片方が下がるという動き方をして、睡眠と覚醒のリズムを作っています。
この2つの中枢それぞれに働きかける薬が存在し、前者の代表がベンゾジアゼピン系睡眠導入剤、後者の代表がオレキシン受容体拮抗薬です。後者の方は歴史がまだ浅いものの、前者に比べると依存性を形成しにくいという特徴からメリットの大きい薬剤です。
また「睡眠障害対策のための十二の指針」と呼ばれるものがあります。

睡眠障害対策のための十二の指針

  1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければそれで十分。
  2. 寝る前には刺激物を避け、自分なりのリラックス法を。
  3. 眠くなってから床に着く、就床時間にこだわりすぎない。
  4. 同じ時刻に毎日起床。
  5. 朝は光をしっかり取り入れて、夜は程よい明るさで。
  6. 規則正しい食事と運動習慣を。
  7. 昼寝は15時より前に20-30分間で。
  8. 眠りが浅いときは、積極的に遅寝・早起き。
  9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止、足のぴくつき・むずむず感は要注意
  10. 十分眠っても日中の眠気が強い時には、専門医に受診。
  11. 睡眠薬がわりの寝酒は不眠のもと。
  12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全。
薬を用いる以外に工夫できることとして、非常に参考になると思います。
(詳しくはhttps://www.suimin.net/data/images/guide/guide.pdf
改善に向けて

不眠症は、そのほかの身体疾患の発症や悪化の危険因子にもなり得たり、精神衛生上も良くないことが知られています。不眠に対処することは健康を取り戻す基本になります。
また既に何らかの精神疾患があって、その症状として不眠をきたしている方も、このページの記述が参考になると思います。ご参考になさってください。