全般性不安症(全般性不安障害)
他の不安症圏の病気(パニック症、社会不安症など)と違い、不安の対象が定まっていません。日常生活で起こってくるあらゆることが不安で、周囲の人には「なぜそんなに不安がるのかがわからない」といった反応をされてしまいます。また不安の対象がぼんやりしていたり漠然としていたりして、患者さん自身も何が不安なのかを明言できないこともあります。
不安は元来、危険を察知し避けるために、生き物の自己防衛本能の中に組み込まれているものなので、有ることが当然のものです。また社会的にも、現在のような先行きが見えにくく情報が錯綜/混乱して何を信じていいのかも分かりにくい状況下では、漠然とした不安感が漂っていることはむしろ普通のことと言えます。しかし我々はそういった不安を持ちつつも、そのことばかりに気を取られ続けず日常生活を送ることができています。ところが全般性不安症の場合は、明らかに不安や心配が過剰でかつ持続期間も長く、そのことにばかり気が取られてしまうため、日常生活でやりたい事/やらなければいけない事ができなくなってしまいます。不安によってセルフコントロールを失ってしまい、「不安は一旦脇に置いて」ができないのです。
- 些細なことを気にして、取り越し苦労ばかりしている。
- 常に緊張しており、肩の力を抜いてリラックスすることができない。
- 焦燥感、怒りっぽさ。
- 頭痛や頭の重さ、だるさ、圧迫感、めまい、動悸、呼吸苦、便秘や下痢、頻尿。など
- 疲れやすさ、意欲の低下。
- 集中力がなくなる。
- 記憶力の低下、「頭にブレーキがかかったような」状態。
- 抑うつ的、悲観的、になる。
- 億劫で行動ができなくなる。
- 眠れない、食べられない。
病気の原因は、はっきりとはわかっていません。本来不安ではないものを不安である、と認識してしまう、「脳の警戒システムの誤作動」、という側面は、全ての不安症圏の疾患に共通する要因と思われます。また薬が効果があることから考えると、脳内のセロトニンやGABA(治療の項を参照)が症状の形成に関与していることは間違いがありません。しかし、なぜ不安の対象がはっきりしている病気とそうでない病気があるのか、その発生要因の違いが何なのかは、まだはっきりとした知見がありません。
この病気は薬物療法が良く効果を発揮します。以前は抗不安薬というカテゴリーの薬が良く用いられていました。この薬は脳内のGABA(ガンマ-アミノ酪酸)という物質に関連した作用を持ち、大きなメリットとしては不安に対して即効性がある、という点があるのですが、その反面依存性がある事が問題でした。即効性がある、という点がむしろ薬に対する依存心を助長してしまうことがあるわけです。そこで最近は新しい知見に基づいて、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)といった抗うつ薬を不安の治療に用います。これらの薬には即効性がない反面依存性がなく、かつやめても元に戻らないような重篤な副作用が生じにくいため、安全に使用しやすいという利点があります。
抗不安薬と抗うつ薬はうまく使い分ける事が重要で、基本は抗うつ薬の治療を主力として行いつつ、患者さんと主治医で良く相談の上、必要な場合は即効性のある抗不安薬の投与を短期間行う、といった形になります。主治医と相談して定めた服薬の枠組みを守って使用することで、安全に治療を行うことができます。
また人間は「訳の分からないもの」に最も不安感や恐怖感を感じ、「正体を見極めることができたもの」に対しては不安感や恐怖感が低減します。このように認知の仕方を変えることで不安感が薄れ、それにより行動が変化していくという流れを作っていくことが、不安に対処する時の基本になります。病気の症状を客観的に観察し対策を講じて克服を図っていく、という過程を、主治医とプランを立てて実行していくことで、単純に薬を飲んでいるだけよりも治療の効率が向上します。
この病気は「不安に圧倒されてしまう病気」と言えます。常に不安があることで、生活全般に大きな影響があり、人生が大きく左右されてしまうこともありえます。しかし一昔前とは違い、不安症圏の病気はいずれも治療により改善が期待できる状況になって来ています。心療内科/精神科の受診は敷居が高いとは思いますが、ぜひ早くに受診していただき、改善を目指しましょう。